大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(オ)1262号 判決

上告人

丸共産業合名会社

右代表者

清水三郎

右補助参加人

大林茂

右両名訴訟代理人

富岡健一

木村静之

右補助参加人

小松ミツ

右訴訟代理人

井出正敏

被上告人

金子龍太郎

右訴訟代理人

酒井祝成

中田健一

後藤年宏

被上告人

鈴木弘子

被上告人

鈴木道雄

被上告人

鈴木常雄

被上告人

鈴木孝雄

右四名訴訟代理人

長坂凱

主文

原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。

本件を名古屋地方裁判所豊橋支部に差し戻す。

理由

上告代理人兼上告補助参加人大林茂代理人富岡健一、同木村静之の上告理由第一について

本件記録によれば、本件訴訟の経過は、次のとおりである。即ち、(一) 上告(被告)会社の社員である被上告人(原告)金子龍太郎は、昭和四九年八月一〇日限り上告会社を退社したので、同年一〇月一五日上告会社に対し持分全部の払戻を求めて本訴を提起したが、その際上告会社の代表者については同会社の登記簿謄本により代表社員鈴木栄一と訴状に表示した。(二) 第一次第一審裁判所は、本件訴状副本及び期日呼出状を右鈴木栄一にあてて送達したうえ審理を遂げ、昭和五〇年四月七日右被上告人勝訴の判決を言い渡し、同月九月右判決正本を右鈴木栄一あてに送達した。(三) これに対し上告会社の社員清水三郎は、同月一四日上告会社のため補助参加の申立をするとともに、右清水三郎が委任した訴訟代理人弁護士富岡健一、同深谷出名義の控訴の申立をした。(四) 第一次控訴審裁判所は、上告会社に関する本件控訴状副本及び期日呼出状を右鈴木栄一あてに送達して審理を進めたが、昭和五〇年一一月一八日上告会社の社員大林茂、同清水昭好、同清水三郎三名の連名で上告会社の代表社員が退社し会社を代表すべき社員がないので商法七九条に基づき他の社員の過半数の決議をもつて本件訴訟に関する代表社員を清水三郎と定めることに同意した旨の「会社社員間の訴に関する代表社員を定める決議書」を提出したため、その後は上告会社の代表者を右清水三郎として審理を遂げ、昭和五二年一一月二八日、本訴提起前に上告会社の代表社員を辞任した鈴木栄一を上告会社の代表者として審理、裁判した第一次第一審裁判所の訴訟手続及び判決手続には法令違背があるとして第一次第一審判決を取り消し、事件を第一次第一審裁判所に差し戻した。(五) 第二次第一審裁判所は、昭和五四年四月一七日、上告会社を退社した鈴木栄一が上告会社に対し持分全部の払戻を求める訴訟(昭和五三年(ワ)第一七九号事件)を併合したうえ、上告会社の代表者清水三郎が委任した弁護士富岡健一、同細井土夫を上告会社の訴訟代理人として関与させて審理を遂げ、昭和五五年七月一八日被上告人金子龍太郎、右鈴木栄一の各請求をそれぞれ一部認容する判決を言い渡し、右判決正本を弁護士細井土夫に対し交付送達した。(六) これに対し上告会社は、同月二九日控訴の申立をし、被上告人金子龍太郎、右鈴木栄一も附帯控訴したが、上告会社の右控訴状は前記の同会社代表社員清水三郎の委任した弁護士富岡健一、同細井土夫名義で作成提出されている。なお、鈴木栄一は昭和五六年六月一〇日死亡し、その相続人である被上告人鈴木弘子、同鈴木道雄、同鈴木常雄、同鈴木孝雄が訴訟を承継した。(七) 第二次控訴裁判所は、昭和五六年九月三〇日上告会社の控訴を棄却し、被上告人らの右附帯控訴をいずれも認容する判決を言い渡し、右判決正本を弁護士富岡健一が委任した弁護士木村静之に対し交付送達した。(八) そこで、上告会社は、昭和五六年一〇月九日本件上告の申立をしたが、右上告の申立に際し、上告会社の社員大林茂、同清水三郎の三名は、商法七九条により本件訴訟に関する代表社員を清水三郎と定める旨の「会社社員間の訴に関する代表社員を定める決議書」を提出した。以上の事実が認められる。

そこで、以上の訴訟の経過に基づいて本件を検討するに、右によれば、第二次第一審裁判所及び第二次控訴審裁判所は、本訴提起前上告会社の代表社員鈴木栄一が代表社員を辞任したものとしたうえ、商法七九条により上告会社の社員の決議をもつて本件の訴えにつき会社を代表すべき社員と定めた清水三郎を上告会社の代表者として訴訟手続に関与させて審理、裁判したものであるところ、被上告人らの上告会社に対する本訴請求は、被上告人金子龍太郎及び被上告人鈴木弘子外三名の被承継人鈴木栄一がそれぞれ上告会社を退社したことに基づく持分払戻請求であつて、右持分払戻請求権は、上告会社の社員たる資格から生じた権利ではあるが、同会社の社員たる地位を去つた者がはじめて取得する権利であるから、右持分払戻請求訴訟は社員が会社に対し訴えを提起する場合にあたらず、本件持分払戻請求訴訟については商法七九条の規定が適用されないものと解すべきものである。そうだとすれば、本訴においては、右清水三郎には上告会社を代表すべき資格がないことに帰するから、上告会社に対してすることを要する訴状副本及び期日呼出状の送達から判決言渡に至るまでの一切の訴訟行為を、終始右清水三郎ないし同人の委任した訴訟代理人弁護士に対して第二次第一審裁判所の訴訟手続及び判決手続には法令違背の違法があり、また、右違法を看過し、かつ、同じくこれらの訴訟代理人を関与せしめたままされた第二次控訴審判決にも判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背があるといわざるをえず、この点に関する論旨は理由がある。そして、このような場合には、裁判所としては、民訴法二二九条二項、二二八条一項により、被上告人らに対し訴状の補正を命じ、また、上告会社にいまだ会社を代表すべき者がないときには、被上告人らの申立に応じて特別代理人を選任するなどして上告会社を代表する権限を有する者の欠缺を補正する余地があり、被上告人らにおいて右のような補正手続をとらない場合にはじめて裁判所は被上告人らの本件訴えを不適法として却下すべきものと解するのが相当であるから、原判決を破棄し、第一審判決を取り消したうえ、本件を第一審裁判所に差し戻すのを相当とする。

よつて、その余の上告理由について判断を加えるまでもなく、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八九条により原判決を破棄し、第一審判決を取り消し、本件を第一審裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官本山亨は退官のため評議に関与しない。

(中村治朗 団藤重光 藤﨑萬里 谷口正孝)

上告代理人兼上告補助参加人大林茂代理人富岡健一、同木村静之の上告理由

第一、代理権の欠缺

本件訴訟においては、上告人会社の「代表社員」とされている清水三郎には代表権が認められないので、民事訴訟法三九五条一項四号の「法定代理権の欠缺ありたるとき」に該当し、原判決は破棄を免れない。

本件持分払戻請求事件は、上告人会社の社員であつた金子竜太郎、代表社員であつた鈴本栄一が、それぞれ昭和四九年八月一〇日付書面によつて、商法八四条二項に基づく退社の意思表示をなし、持分の払戻を求めるものである。

上告人会社は、会社代表者については定款により、総社員の同意をもつて代表社員を選任することとしているが、代表社員であつた鈴木栄一が前記のように退社し、代表社員が欠けるに至つたところ、総社員の同意により代表社員を定めることができなかつたため、これまで、便宜上、商法七九条に基づいて他の社員の過半数の決議によつて清水三郎を本件訴訟に関する代表社員と定めて応訴してきた。

しかしながら、商法七九条は、会社と社員間の訴訟に関する規定であることは同条の文言から明らかであつて、本件のように、既に退社の意思表示をして社員の地位を失つた者と会社との間の訴訟には適用がない。

蓋し、持分払戻請求権は、社員たる資格から生じた権利ではあるが、退社員はすでに社員たる地位を去つた者であり、それは退社員が会社に対して有する第三者的権利である(注釈会社法(1)三四五〜三四六頁)と解されるからである。因みに同条が適用される訴訟とは、商法一〇四条、一一二条、一三六条、一四〇条所定の訴に限られるのである。

従つて、上告人会社が商法七九条に基づいて清水三郎を代表者と定めて訴訟を追行したことは、手続上の誤りであり、清水三郎には、本件訴訟に関して上告人会社を代表する権限がなかつたと謂わなければならない。

上告人会社においては代表者が欠けているのであるから、被上告人らが上告人会社に対して訴訟を提起するためには、民事訴訟法五六条、五八条によつて、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申請し、これによつて選任された特別代理人に対して訴訟行為をなすべきである。しかるに、本件第一、二審訴訟手続は、被上告人らにおいて右の手続をとることなく、代表権を有しない清水三郎との間でなされたものであるから、民事訴訟法三九五条一項四号の「法定代理権の欠缺ありたるとき」に該当し、原判決は破棄を免れない。

第二、法令違背〈以下、省略〉

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